今回は有機金属試薬の発生法と滴定法や、それに関連するジエチルエーテル(Et2O)とテトラフドロフラン(THF)を中心に取り扱いながら、HMPAを使った合成実験を通じて経験したことを共有したいと思います。
【エーテル系溶媒の候補】
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/c/13347
【HMPAの代替試薬】
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ヘキサリン酸トリメチルアミド:HMPA
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/substance/hexamethylphosphoramide17920680319
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N,N′-ジメチルエチレン尿素:DMI
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/40727
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/251569
テトラメチル尿素:TMU
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/t24503
N-メチルピロリドン:NMP
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/sial/328634
【有機金属試薬の発生法】
有機リチウム試薬と有機マグネシウム試薬(Grignard試薬)は、有機合成化学において非常に重要な役割を果たしています。
これらの試薬は、多くの化学反応で中間体やビルディングブロックとして使用され、様々な有機化合物の合成に不可欠です。
以下にそれぞれの試薬の発生方法について説明します。
1.有機リチウム試薬の発生方法
アルキルまたはアリールハライドに金属リチウムor n-BuLi、s-BuLi、t-BuLiを加え、
非常に低温(しばしば-78℃のドライアイス/アセトンバスで行われる)で反応させます(0℃でも大丈夫なものもあります)。
この反応では、ハライドがリチウムに置換され、有機リチウム化合物が生成します。
この反応は非常に発熱的であり、しばしばエーテル系溶媒(例:ジエチルエーテル、THF)の下で行われます。
発生させる有機リチウム種に関してはHMPAの添加が必要であり、その変異原性ゆえに嫌煙されているのですが、使わないと有機リチウム種が分解してしまうことがあります。
さらにHMPAに関しては変異原性を問題視する風潮があり(いいことだと思います)、代替試薬が様々に開発、販売されています。頭の片隅に置いておくといいでしょう。
筆者も5、6種類検討したことがありますが結局HMPAが良かったという経験があります。
とにかく合成経路を通したいときのファーストチョイスはHMPAでいいと思います。
基質の合成経路を通さないことには話が始まりませんからね。
ちなみに金属お反応に使う場合は金属リチウムの塊をセラミック包丁で切り刻む必要があります。
この際、金属包丁を使ってしまうと。事故につながりかねませんので、気をつけましょう。
i一般に有機マグネシウム試薬(Grinard試薬)は、アルキルハライドまたはアリールハライドと金属マグネシウムを反応させることで生成されます。この反応は「通称」グリニャール反応として知られています。
調製法1:
乾燥したエーテル(一般的にはEt2OまたはTHF)の溶媒中で、金属マグネシウムの細片とアルキルまたはアリールハライドを反応させます。この反応はしばしば室温またはわずかに加熱して行われます。
コツ:金属マグネシウムを使ってGrignard試薬を調製しようとするときは金属マグネシウムリボンからその調整をすることと思います。
そのときはガラス反応装置をヒートガンで乾燥するときに、マグネシウムリボンも一緒にフラスコの中に入れてしまい、マグネットで外から揺さぶって中でよく乾燥するとよいでしょう。そうすることで反応容器の壁にくっつきにくくなり、実験で仕込むときに厄介ごとが減るので良いかと思います。また、研究室にオクタゴン回転子があるのであれば、それを使うとよいでしょう。オクタゴン回転子は固まり状試薬をフラスコの中で粉砕するのに役立ちます。そこまで高価なものでもないのでなければ調達するのもよいと思います。
https://axel.as-1.co.jp/asone/g/NCG024501/
金属試薬全般に関しての調製のことですが、1電子機構で反応が進行します。
(しばしば販売されている教科書でも記載が間違えていることがあります。)
1電子機構で反応が進行するということは反応中間体として必然的にラジカルが生じるということになります。そのラジカル同士がホモカップリングしまうことを「ウルツカップリング」と言いますが、この反応を防ぐために反応溶液中のハロゲン化物の濃度は可能な限り薄くするのが好ましいとされております。これはマグネシウムに限らず、金属試薬を使って還元するときも同様ですので、知っておくと良いでしょう。
さらにGrignard試薬を調製するときに気を付けることがあります。
それはマグネシウムのルイス酸性です。
Grignard試薬の調製法には、さまざまなコツがありますし、それはほかの方もブログで書かれていますから、一旦はここのブログでは割愛し、このブログではルイス酸性に注目します。
Grignard試薬のC-Mg部分は周知のとおり、反応性がかなり高く官能基許容性には注意が及ぶことと思います。
しかし、例えばアセタール系保護をかけている基質を、少し乱暴をして還流下で調製を試みると、その保護が台無しになり、目的のGrignard試薬が調整できなくなってしまいます。
(フラスコにヨウ素を放り込んで還流させるというテクニックが存在しています。)
ルイス酸性条件に耐性がない保護基がある場合にはきちんと氷冷下で調製することをおすすめします。
また、ルイス酸性という観点に関して、ようやくEt2OとTHFの違いに関して触れるところがきました。
Grignard試薬のMg元素はルイス酸性を持ち、当然周囲にルイス塩基が存在すれば、それによって配位を受けます。
したがってEt2OとTHFの配位性の違いによってGrignard反応剤の安定性が変わります。
THFを使うと上手くいかなかったものがEt2Oで上手くいくということがしばしば起こります。
これを知っておくと良いでしょう。
調製法2:Turbo Grignard(i-PrMgCl・LiCl)試薬の使用
https://www.chem-station.com/odos/2010/09/-turbo-grignard-reagent.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/siyaku-blog/010871.html
調整法3:有機リチウム種を臭化マグネシウム(MgBr2)と反応させる
3.おすすめの滴定法
筆者が実験化学講座を元にさまざまな検討をしましたが、注意すべきは有機リチウム試薬と有機マグネシウム試薬で呈色剤となる配位子を変えることです。
有機リチウム試薬 :ビフェニル
有機マグネシウム試薬 :1.10-フェナントロリン(無水のものを使ってください)
金属試薬のクエンチに使うアルコールはメントールがおすすめです。
固体で吸湿性も極めて低く、精密秤量がしやすいためです。
以上有機金属試薬の発生法や滴定法、エーテル系溶媒やHMPAの代替試薬について筆者の経験をまとめてみました。
どこかで誰かの役に立つと嬉しいです。
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